講演会の報告

12.13 中東情勢講演会(香川駐エジプト大使、「エジプト政治・経済の現状」)

  • 講演会の報告
  • 公開日:2018/01/09

2017年12月13日(水)、フォーリン・プレスセンター「会見室」にて、香川 剛廣・駐エジプト大使をお招きし、中東情勢講演会を開催しました。

 

講 師:香川 剛廣 駐エジプト大使

演 題:「エジプト政治・経済の現状」

  

(講演会要旨)

 エジプトは、地域最大の人口と若年層の厚さ(消費欲の高さと市場開拓の可能性)、また地政学的には中東、北アフリカ、ヨーロッパ、サブサハラの交差点という点で、同国の安定は地域全体の平和と安定の要である

 イラク・シリア、リビアからISIL戦闘員が流入する可能性があるため、エジプト政府はシナイ半島とリビア国境で二つの対テロ戦争を継続している。なお、シナイ半島の動向は本土の情勢や社会的な動態と連動していないと言って良いだろう。都市部で散発的なテロ事件が発生しているが、一般人を標的にした無差別テロ事件は発生しておらず、治安当局やキリスト教徒などを標的にした限定的なものにとどまっている。

 エジプト現政権は、地域・国際政治よりも内政の安定を優先している。経済の立て直し、経済改革(財政赤字・補助金制度、変動為替制導入、国内産業の振興、失業者への対応)に加え、政権の安定的な運営のため、治安の引き締めが強化されている。ムスリム同胞団を始め反政府勢力の抑え込みが行われており、一定の成果を上げている。今後、社会からの不満が高まる可能性もあるが、現政権の安定性は確保されていると言えよう。中長期的には、社会格差の是正、教育の問題に取り組み、社会の安定化を図ることが重要である。

 外政については、調停、仲介といった域内大国としての役割は限定的である。最近では、サウジ、UAE、エジプトによるカタル断交危機が注目されているが、過激な傾向のサウジと異なり、カタルに在留する30万人のエジプト人の地位を保全し、カタルとの銀行業務を継続するなど、エジプトは現実的な対応をしている。トランプ政権との関係は依然として不透明だが、エジプトは、軍事・経済援助含め米国との関係改善に期待している。また、エジプトは、政治、経済、軍事と外交の多角化を目指してロシア、中国、アジア諸国との関係強化に努力している。これに対しロシアは、原発プロジェクトなどをテコにエジプトに橋頭堡を再構築しようとしている。一方、中国のプレゼンスは、未だ限定的である。

 日本とエジプトの関係は、首脳外交の成果もあり、経済協力、教育の分野で進んでいる。特に教育分野における人材の育成は、エル・シーシ大統領個人が強い関心を示しており、日本式の教育の導入を始め様々な協力が実施されている。

 エジプトの経済は、外貨獲得源を観光、スエズ運河収入、海外労働者送金に頼るなど、地場の産業の育成が不十分である。1億人近い人口は大きな市場価値があり、自動車産業などの製造業の発展が期待される。日本からもトヨタ、日産が工場進出している。また、農業については、世界でも有数の輸出国であるが、加工産業や流通などのサービス産業の発展が不十分であり、その潜在力を活かせていない。エジプトは、昨年の変動相場制導入以来、通貨価値が半減しており、エジプトに輸出するというビジネスではなく、エジプトに投資し、製品を生産し、輸出して稼ぐというビジネスモデルが有効であり、現在、日本企業も含めエジプトにおける輸出企業の業績は極めて好調である。

 

(質疑応答では、サウジアラビアとの最近の関係に関する質問などがあった。)

 

(※講演内容は講師の個人的見解であり、講師の所属先の立場や見解、認識を代表するものではありません)

以上

 

 

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