中東かわら版

№183 オマーン:アスアド国王代理の副首相任命

 3月2日、カーブース国王は勅令を発出し、アスアド・ビン・ターリク国王代理を国際関係・協力担当副首相兼国王特別代理に任命した。アスアドは、有力な次期国王候補の一人で、2002年から国王代理の職に就き、国際会議や式典などでカーブース国王の代理を務めてきた。

 副首相の任命は、過去47年のカーブース政権下では4人目であり、1994年にファハドが閣僚評議会担当副首相に任命されて以来、23年ぶりのことである(なお、ファハド自身は1979年から法務担当の副首相職にある)。80年代から90年代前半にかけては安全保障・国防担当、経済・財務担当、法務担当と副首相が3人いる体制がとられていたが、90年代半ばに安全保障・国防担当、経済・財務担当の副首相がそれぞれ死去した後は、ファハドが唯一の副首相であった。

 

評価

 今回のアスアド副首相任命は、事実上の後継者指名を意味しているかもしれない。オマーンには皇太子を置く制度がなく、また現国王のカーブースには子どもがいない。1996年に制定された国家基本法(事実上の憲法に相当)によると、次期国王の選定は、王位が空位となってから3日以内に王族評議会が決定することになっており、もし王族評議会が合意に至らなかった場合には、国王が生前に書簡にて指名しておいた人物を王位に就けることになっている。

 いずれの方法で決めるにせよ、有力な候補は数名に絞られており、なかでもカーブース国王の従兄弟の、アスアド国王代理、ハイサム遺産文化相、シハーブ国王顧問の三人が最有力と言われてきた。王族内の序列ではファハド副首相の方が三人より上位であり、行政上も副首相という要職に長年いるものの、ファハドの家系はカーブースから四代も遡ることになり、これまで王位継承がされてきた血筋からは遠いため、ファハドになる可能性は低いと見られてきた。

 この三人の役職はいずれも日々の行政の中心的な問題を担う要職といえる地位ではなく、どちらかといえば儀礼的な役割が強調されるポストであった。これは、カーブース国王が、後継者間の権力争いを避けるため、あるいはどの人物を後継者とするかを明らかにしないために行った措置とも言われている。今回アスアドが副首相に任命されたということは、この慣例を破ることになる。首相職は国王が兼務しているためアスアドは行政上の第三位(あるいはファハドと同列の第二位)となり、一大臣であるハイサム遺産文化相よりも明確に上位の序列になる。

 カーブース国王は、2014年7月から8カ月間ドイツで医療プログラムを受けるなど、健康状態に不安を抱えている。先月にはイランのロウハーニー大統領、クウェイトのサバーフ首長の訪問を受け入れる様子が放送され、現在も重要な政務を担っていることが内外に示されたが、政治の表舞台に立つ回数は大幅に減少しており、自身が健康なうちに後継者問題に一定の道筋をつけることを意図している可能性がある。

(研究員 村上 拓哉)

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