中東かわら版

№59 サウジアラビア:ムハンマド・ナーイフ皇太子が解任、ムハンマド・サルマーン副皇太子が新皇太子に

 6月21日朝、サルマーン国王は、ムハンマド・ナーイフを皇太子・副首相・内相の役職から解任し、ムハンマド・サルマーン副皇太子・国防相を皇太子・副首相・国防相に任命する勅令を発出した。サウジ国営通信の発表によると、国王や皇太子の選出を担う忠誠委員会において、ムハンマド・サルマーンの皇太子任命に関する採決が行われ、34人中31人の同意が得られた。これにより、ムハンマド・サルマーンの皇太子就任が認められたことになる。21日夜には国民からの忠誠の誓いを受けるバイアの儀式が執り行われることが発表されている。

 このほか、王族の人事異動に関する複数の勅令が発出されている。空席になった内相の後任には、アブドゥルアジーズ・サウード・ナーイフ内務省顧問が任命された。アブドゥルアジーズは故ナーイフ皇太子・内相の孫、サウード・ナーイフ東部州知事の子であり、ムハンマド・ナーイフから見て甥にあたる。

 

評価

 2015年1月にサルマーンが国王に就任し、自身の息子であるムハンマド・サルマーンを国防相、そして同年4月に副皇太子に抜擢して以降、いずれムハンマド・サルマーンを皇太子に任命するのではないかとの噂は常に取り沙汰されていた。他方、その際に皇太子から解任されたムクリンと異なり、ムハンマド・ナーイフは内相としての実績、サルマーンとの関係の近さ、そして自身に男子がいなくムハンマド・サルマーンとも年齢が離れていることから、サルマーンからムハンマド・ナーイフへの王位継承は滞りなく行われるのではないかとの見方が主流であった。他方で、閣僚のほとんどがメンバーとなっている経済・開発評議会の議長にムハンマド・サルマーンを任命するなど、将来の王位継承に向けた準備は着々と進められてきたとも言える。

 今回、サルマーン国王がなぜこのタイミングでムハンマド・サルマーンを皇太子に引き上げたのかは不明である。カタルとの外交危機が続くなか、国内の混乱を招きかねない決定を急いだことは、不自然なようにすら思える。サルマーンの健康状態が悪化した可能性も一部で取り沙汰されているが、前日にはイラクのアバーディー首相の訪問を受けており、政務が執行できない状態になっているということはないだろう。

 今回の発表の4日前の17日に、サルマーンは司法制度の改革に関する勅令を発出しており、そこでは内務省の管轄下にあった警察・検察機関を国王の管轄下に移すことが決められている。これは内相として国内治安問題の責任者であったムハンマド・ナーイフの権力を弱めるものと見られていたが、今回の皇太子解任との関連性はまだはっきりとしていない。

 

(研究員 村上 拓哉)

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