中東かわら版

№69 「イスラーム国」の生態:バグダーディーの死亡情報

 

 2017712日付『シャルク・ル・アウサト』紙(サウジ資本)は、消息筋の話や複数の報道を基に、「イスラーム国」の自称カリフであるアブー・バクル・バグダーディー(本名:イブラーヒーム・バドリー)の死亡情報について要旨以下の通り報じた。

l  「ソウマリーヤ・ニューズ」(イラクの報道機関)はニナワ県の消息筋の話として、「「イスラーム国」は、非常に短い声明でバグダーディーの死亡を認め、戦闘員に対し、持ち場を死守するよう呼びかけた。声明はタルアファル郡で発信された。この発表は、同地でバグダーディーの生死について公に語ることへの禁止措置が解除された2日後のことである。タルアファルでは、バグダーディーの死亡が確認されたのち「イスラーム国」の内部で反乱がおきた。このため、郡内の大半で外出禁止令が出され、治安班が多数展開している」と報じた。

l  シリアの「反体制派」の広報機関である「シリア人権監視団」は、「(シリアの)ダイル・ザウル県にいる「イスラーム国」の前線の幹部が、バグダーディーの死亡を認めた。いつ、どのように死亡したかは不明である」と発表した。

l  「イスラーム国」に詳しい活動家は、死亡情報に疑義を呈した上で、「バグダーディーには3人の影武者がおり、彼らはシリアとイラクで「イスラーム国」が占拠する地域にいる。うち一人は、ダイル・ザウル西方におり、彼に対し2度の爆撃が行われたが殺害できなかった」と述べた。また、この活動家は、「イスラーム国」はバグダーディーではなく12人の委員からなる評議会が運営しているため、「イスラーム国」にとってバグダーディーの死亡を発表することは特段の問題ではないと指摘した。

l  バグダーディーは、20146月の動画、201611月の演説音声を除き、ほとんど姿を現さないことから、「イスラーム国」の構成員の一部は同人を「幽霊」と呼んでいる。

l  「イスラーム国」の内部には、4月にイラクのカーイムの砂漠地帯にある訓練キャンプでバグダーディーの目撃情報がある。

 

評価

 一部報道機関は「イスラーム国」が声明を発表したと報じている模様だが、本稿執筆時点では「イスラーム国」の公式な声明も、同派の自称通信社の「アアマーク」からも、この件についての情報は全く発信されていない。バグダーディーの消息については、6月にロシアの国防省がロシア軍の爆撃で死亡したと思われると発表するなど、様々な情報が錯綜している。重要なのは、同人の生死が今後の「イスラーム国」に与える影響であろう。「イスラーム国」の構成員が敵との戦いの中で死亡することは、彼らにとっては誇るべき「殉教」であり、「カリフの殉教」はさらなる扇動や勧誘のための絶好の材料といえる。また、「イスラーム国」が僭称するカリフ制が機能してると主張したい場合、バグダーディーの死亡が事実ならばこれを速やかに発表し、後任を擁立すべきである。死亡情報が正しくないのならば、これもそのような情報に振り回されている敵方を嘲笑・非難するための広報材料として利用する方が“「イスラーム国」らしい”行動様式といえるだろう。

 また、「イスラーム国」の広報や活動は、イスラーム過激派としては特段新味のない単純な内容を、匿名の構成員が復唱し続けることを特徴としており、これについてはバグダーディーであれ、「イスラーム国」の報道官であれ例外ではない。つまり、バグダーディーは「イスラーム国」がムスリムや世界の報道機関の関心を引き付けるための「カリフの役割」を演じる部品のような存在であり、代替が不可能な最重要の幹部というわけではないだろう。

 以上に鑑みると、バグダーディーの死亡が事実であるならば速やかに発表し、後任を擁立した方が「イスラーム国」にとっては得策といえる。「イスラーム国」が短期間のうちにそのような行動に出ない、または出られないのならば、同派の組織内での意思疎通や意思決定、または広報部門の活動の一部か全部に相当な機能不全が起きていると考えることができる。

(イスラーム過激派モニター班)

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