中東かわら版

№72 サウジアラビア:ジャマール・カショギ氏の失踪 #4

 サルマーン国王は勅令でアシーリー総合諜報庁副長官、カフターニー王宮府顧問らを解任するとともに、ムハンマド皇太子を委員長とする諜報機関再編委員会を編成した。詳細は以下の通り。

 

解任

アフマド・ビン・ハサン・ムハンマド・アシーリー総合諜報局副長官(少将)

サウード・ビン・アブドッラー・カフターニー王宮府顧問

 

諜報機関再編委員会

委員長:ムハンマド皇太子

委員:内相(アブドゥルアジーズ・ビン・サウード)、ムサーイド・アイバーン(国務相)、イブラーヒーム・アサーフ(国務相)、王宮府長官(ハーリド・イーサー国務相)、外相(アーディル・ジュバイル)、総合情報局長官(ハーリド・フマイダーン)、国家治安長官(アブドゥルアジーズ・ビン・ムハンマド・フワイリーニーと思われる)

なお、この委員会は編成から1カ月で答申を出す旨定められた。

 

評価

 今般の決定は、イスタンブルのサウジ総領事館を舞台としたジャマール・カショギ氏殺害事件に関するサウジ側の調査・責任追及の文脈でのものである。サウジ政府はムハンマド皇太子をはじめとする王族の関与を否定し、「情報機関への指令の不徹底」として事態を処理する方針のため、諜報機関の再編委員会の委員長に、カショギ氏殺害への関与が疑われるムハンマド皇太子本人を任命した。このようなサウジ側の「シナリオ」に対しては、欧米諸国の政府・報道機関から不満や疑義が呈されている。また、2017年の断交以来敵対関係にあるカタルの広報機関としての役割を果たすジャジーラTVは、カショギ氏殺害事件に連日多くの時間・紙面を割いている。

 アラブの権威主義体制諸国において、情報機関は敵対者・批判者を封殺したり、国内外の世論を操作したりする上で極めて重要な機関である。そのため、今般の事件について仮にサウジ側の「シナリオ」に沿った「決着」が図られるとしても、サウジ自身が重要な国家に対する統制の不備という無能をさらけ出した結果となり、これまで情報機関を指揮する立場にあった皇太子らからなる委員会も形だけのものとなろう。また、カショギ氏事件への関与の程度の如何を問わず、情報機関に対しては国王や皇太子が管理責任を負うべき立場にあり、その責任から逃避して事態の収拾を図るならば、サウジ側が守ろうとしている「王族の威信」はかえって損なわれるのではないだろうか。

(主席研究員 髙岡 豊)

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