中東かわら版

№91 イラン:チャーバハールでのテロ事件

 12月6日、イラン南東部スィースターン・バローチェスターン州の港湾都市チャーバハールにおいて、自爆テロが発生した。警察本部前で自動車が爆発し、少なくとも死者2名(一部報道では4名)、負傷者30名以上の犠牲が出ている(6日付、メフル通信ほか)。

 イスラーム革命防衛隊(IRGC)パークプール司令官は、テロリストは警察本部を襲撃予定だったが、正門で警官に止められてその場で爆発物を起動させたため(実行犯1名はこの時に死亡)、当初の目的を果たせなかったと述べた。その上で、警察署長が犠牲者の中に含まれているという一部報道を否定した。イラン内務省のヘイダリー国境問題局長も同様の見解を示した上で、チャーバハールの治安は既に回復したと発表している。

 今般の事件については、イランのスンナ派反政府組織アンサール・アル・フルカーンが犯行声明を出した。

 

評価

 今般のテロ事件は、インド洋交易の要であるチャーバハールで発生したことから、関係各国に動揺を呼ぶことが想定され、イラン政府は事態の鎮静化に尽力している。地元当局やIRGCの関係者らが、警察署への被害が最小限に留まり、治安も回復したと繰り返している点からも、イラン側が国内外にチャーバハールの安定をアピールしたい意向が読み取れる。

 チャーバハールは、ホルムズ海峡の外に位置するイラン東端の港湾都市であり、同海峡の不安定化に影響を受けにくい位置にある。同港は、その戦略的重要性に着目したインドの支援で建設された。インドにとってみても、同港は中国の「一帯一路」構想に対抗する拠点であり、国際南北輸送回廊(INSTC)への接続まで企図する一大プロジェクトの要である。そのため、同港の活性化に注力したいインドも、今般のテロを厳しく非難している。

 ただ、チャーバハールが属するスィースターン・バローチェスターン州は、元々治安の悪い地域である。というのも、同州南東部から隣国パキスタンの同名州にかけてはスンナ派のバローチー人居住区が分布しており、元々分離独立運動が盛んであったからだ。そのため、イランはチャーバハール港の建設と前後して同州の治安維持に注力してきた。しかし、情勢はなかなか安定せず、10月には同州の国境付近で国境警備隊と民兵(バスィージ)がパキスタン側に拉致されるという事件も起こっている。

 こうした事態を牽制する意味合いもあり、イランはテロについて厳しく追及する意向を示している。例えば、ザリーフ外相は、2010年に同地で起きたテロ(スンナ派反政府武装組織ジュンドッラーの首魁が2010年に逮捕・処刑されたことに対する報復攻撃)を引き合いに出してツイートし、今般のテロの背後にも外国勢力(米国に支援されたスンナ派諸国)が存在することをにおわせている。同様の発言は、アフワーズでのテロ事件(9月22日)でも見られた。外国による干渉については、真偽の程は定かではない。ただ、イランとしては、今般の事態を政権や体制に対する反発ではなく、外国に唆された一部のテロリストの仕業に留めておきたい意図があると考えられる。

 チャーバハール港はアフガニスタンへのアクセスが確保されていることで、米国による制裁を免除されている。制裁に苦しむイランにとしてみれば、こうした事態を早急に収束させ、この好機を活用したいところだろう。

(研究員 近藤 百世)

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