中東かわら版

№18 シリア:ガソリン不足が深刻化

 シリアでガソリンの不足が深刻化しており、2019年4月15日付『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)、同17日付『ワタン』(親シリア政府の民間紙)はダマスカスなどの状況を要旨以下の通り報じた。

  •  15日、石油省は自家用車1台に対する補助金付価格のガソリンの販売量を5日で20リットルへと引き下げた。タクシーの1台への割り当ては2日で20リットル、バイクは5日で3リットルである。シリア政府の制圧下の地域では燃料の不足が深刻化しており、通りには車がなく、人々は給油を待つ車を押して列を進めている。
  •  シリアでは燃料の不足が続いており、家庭用のガス、暖房などに使用する燃料であるマゾートの不足が、ガソリンにも波及した。ハミース首相は、6カ月前にイランからの信用供与が停止し、スエズ運河も過去6カ月シリア行きのタンカーの通行を許可していないと述べた。
  •  燃料不足のため闇市場が活性化しており、闇市場ではガソリン1リットルが1000シリア・ポンド(SP。1ドル=430~550SP。)、マゾート1リットルが450SPで販売されている。
  •  補助金価格のガソリンはスマートカードを使用して販売されており、当局は密売は困難だと主張しているが、消息筋は、給与所がメーターをごまかして割当量より少なく給油し、浮いた分を闇市場に販売する、車両の所有者が補助金価格で購入したガソリンを闇市場に転売する、などの密売の手法があると指摘した。
  •  ホムスとタルトゥースとの間のレバノンとの国境沿いの幹線道路には、(レバノンから密輸した)ガソリンの売り子たちが立ち並んでいる。ここでは、質は保証されないが1リットル600SP~1000SPで販売されている。なお、16日にダマスカス市内に開設された補助金なし価格で給油する給油所は、1リットル600SPで販売したが、たちまち行列ができた。

 

評価

 シリア政府は、シリア紛争勃発後に累次科された各種の経済制裁を不正なものと認識しており、燃料の不足も制裁と結び付けてシリアに対する「経済戦争」であると主張している。国営の報道機関には、「経済戦争」についての論説が複数掲載されている。また、紛争の結果、石油などを産出する地域が政府の統制外になったり、生産設備が損傷したりして、シリア国内での燃料とその原料の調達が困難になっている。そうした中、イランが必需品の主要な供給者となってきたが、アメリカによる対イラン制裁の再開でイランの経済・社会が打撃を受けることにより、シリアへの必需品の供給が滞ることとなろう。その上、物資が不足する中でその一部を補助金をつけて安価で供給すれば、横流し・転売・退蔵などの不正や汚職が横行することは必然的な結果ともいえる。今般のガソリン不足は、欧米諸国が対シリア制裁を維持する限り、シリアの経済は一定水準以上には回復しないことを示すとともに、シリアの流通や経済の運営が抱える欠陥をも示している。

 しかし、生活必需品の不足が直ちにシリア政府にとっての打撃となるとは限らない。特に、経済制裁によって外部からの供給経路が狭まる場合、政治的な意識が高く各種の社会運動の担い手となるような中間層が没落するとともに、供給の経路を政府やそれとつながる有力者・犯罪組織に握られる可能性が高い。そうなると、困窮した国民が不満を表明することもできないまま物資の供給者に従属させられることが予想される。シリア人民の更なる困窮化、特に中間層の没落は、彼らを国外へと押し出す理由にもなりうるため、このような事態はシリアに経済制裁を科している諸国にとっても意図に反する副作用を及ぼすことになろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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