中東かわら版

№120 UAE:ウクライナ情勢を受けてアブダビ皇太子がプーチン大統領と電話会談

 2022年3月1日、UAE国営通信(WAM)は、アブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子がロシアのプーチン大統領と電話会談したと報じた。会談ではウクライナ情勢につき、平和的解決を目指して各当事国が利益と安定を維持できることの必要性を確認した上で、UAEとしてこれに協力する旨がムハンマド皇太子より伝えられた。またロシアとの二国間関係に関しては、エネルギー市場が安定を維持する上で、ロシアのOPECへの協力が重要であることを同皇太子は強調した。

 

評価

 UAEのウクライナ情勢への対応に関しては、25日の国連安保理において、中国・インドとともに、ロシアのウクライナ侵攻非難決議で棄権したことが注目を集めた(UAEは2022年の非常任理事国)。これについてガルガーシュ外務担当国務相はTwitterで、国連、国際法、国家主権等を尊重する一方、UAEとしては「バランスをとる」ことの重要性を考慮し、「一方の側につくことは更なる暴力しか引き起こさない」と説明している。

 1日の電話会談報道に見られるように、UAEとしてはとりわけエネルギー分野での協力関係を維持するべく、ロシアと中立的な関係でいたいとの思惑がうかがえる。実際、世界で原油価格が高騰し、米国がエネルギー輸出国に転じて以来、2016年にOPECプラスに加盟したロシアがペルシャ湾岸産油諸国の経済に及ぼす影響は大きくなっている。

 さらに、域外情勢においてUAE・ロシアの足並み一致が目立ち始めている点も重要だ。シリアではロシアが支援してきたアサド政権に対して、UAEが2021年以降、国際社会への復帰を呼びかけており、リビアではUAE・ロシアともに東部勢力(ハフタル側)を域内影響力拡大のための橋頭保としている。また対イラン関係においても、サウジ・イランの直接交渉(2021年~)に伴ってUAE・イラン間で閣僚級会談が活発化する中、イランの政治的な支援国であるロシアとの関係は無視できない。

これらは、いずれもUAE・ロシア間に明確な協力体制が築かれているというより、結果として利害の不一致がない、といった状況である。しかし米国の中東地域への関与低下が進む中、UAEがロシアとの関係を重視する姿勢を示したことは対ロシア関係にかかわる積極的なサインの一つであり、対米不信の裏返しとも言えるだろう。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP