中東かわら版

№81 アフガニスタン:ロシア大使館職員2名を含む複数名が死傷する治安事件が発生

 2022年9月5日午前11時頃(現地時間)、首都カーブル市第7区にあるロシア大使館の入り口近くで爆発が発生し、ロシア大使館職員2名を含め少なくとも6名が死亡、10名以上が負傷した。死傷者数は更に増加する可能性もある。ターリバーンのザドラン・カーブル市警察報道官は、自爆犯がロシア大使館に近づこうとしたところ治安部隊が発砲し爆発が発生、ロシア人2名を含めた6名が死亡し、多くのアフガニスタン人が負傷したと明らかにした。ロシア外務省も、テロリストが大使館領事部門の入り口付近で爆発装置を起動したことにより、大使館職員2名が殺害されたと発表した。

 同日、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)が犯行声明を発出し、殉教志願者1名が、ビザ発給を待って集まっていた中で爆発ジャケットを爆発させ、25名以上を死傷させたと主張した(犯行声明の詳細は「カーブルのロシア大使館攻撃についてイスラーム国ホラーサーン州が犯行声明を発出」『イスラーム過激派モニター』【会員限定】M22-11、2022年9月6日を参照)。

 また、ターリバーンのムジャーヒド情報文化副大臣代行兼報道官は、現在、事件発生地区は治安部隊の統制下にあり、今後真相究明を進めると約束した。モッタキー外相代行はロシアのラブロフ外相と電話会談し、今後包括的な捜査が行われる、今次事件が両国間の緊密且つ良好な関係を阻害してはならない、ターリバーン治安部隊はロシア大使館の安全確保に全力を挙げると発言した。

 

評価

 2021年8月にターリバーンが再び実権を掌握して以降、外交使節が標的とされる治安事件は発生してこなかった(注:イスラーム共和国時代には、外交使節が標的とされたり、外交官が被害に遭ったりする治安事件は発生していた)。このため、今次事件は各国外交団の現地治安情勢に対する評価に影響を及ぼすものと考えられる。

 ターリバーンは、過去20年間、祖国が外国軍により「占領」されてきたが、辛抱強く武装抵抗活動を継続したことにより、遂に「自由と独立」を果たしたと自らの戦果を誇示してきた。とりわけ、これまで頻発していた外国軍による誤爆、戦闘行為による民間人巻き添え被害などが減少したとして、治安回復をアピール材料として示してきた。実際、国連の報告によると、ターリバーン復権後、治安事案数は激減している。同時に、ターリバーンは諸外国からの政府承認を目指し、外交団の安全を確保すること、並びに、アフガニスタンの領土を他国に危害を加えるために国際テロ組織に使用させないことを公約してきた。特に、ターリバーンはISKPを取るに足らない勢力だと、ことあるごとにこき下ろしている。

 こうした中、ターリバーンにとっての政治的後ろ盾の筆頭格であるロシアの権益が、ISKPの標的とされ職員2名が死亡したことは、ターリバーンにとっては痛手である。即座に外相代行がラブロフ外相に電話し、大使館の安全確保を確約し、両国関係の維持を求めたことは、ターリバーンとしても今次事件が対ロシア関係に悪影響を及ぼさないよう細心の注意を払っていることを示している。

 もう一つ注目されるのは、今次事件が、ロシアの今後の対アフガニスタン政策に及ぼす影響である。ロシアは、カーブル陥落の混乱の最中でも、駐アフガニスタン大使館の通常業務を続けた数少ない国の一つであり、またターリバーンと良好な関係を築く大国である。2022年2月には、ロシア外務省は、ターリバーン暫定政権を代表して派遣された最初の外交官を、諸外国として初めて信任してもいる。中国ほど経済・投資関係が強くないとはいえ、地政学的要衝であるアフガニスタンを押さえることによるユーラシア大陸での影響力の拡大、テロ対策、及び、麻薬対策などの観点からロシアはターリバーンの船出を支えてきた。ロシア側に治安面での不安が生じるようであれば、ロシアによるターリバーンへの接近にブレーキをかける可能性はある。一方で、対ISKP戦線では、ロシアとターリバーンが協力する展開もあり得るだろう。

 日本としても、アフガニスタンの大使館を一時閉館しカタル臨時事務所から遠隔業務を続ける中で、今次事件が与える影響を見極める必要がある。実効支配勢力であるターリバーンが各国外交団の安全を確保できないとすれば、日本を含む各国が現地に大使館を再開させる判断に踏み切ることは難しい。自前での警備体制構築には、法的・実務的な困難も伴うからだ。

 ターリバーンと敵対関係にあるISKPの観点からしてみれば、注目度の高い標的に攻撃を仕掛けることで、ターリバーンの評判を貶めることに「成功」したともいえる。そうだとすれば、ISKPの今後の動向には、より一層の警戒が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<イスラーム過激派モニター>【会員限定】

・「カーブルのロシア大使館攻撃についてイスラーム国ホラーサーン州が犯行声明を発出」M22-11、2022年9月6日

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP