中東かわら版

№3 パレスチナ・イスラエル:アクサー・モスクなどでの衝突激化

 2023年4月5日未明のアクサー・モスクでのイスラエルの警察とパレスチナ人との衝突を契機に、諸当事者間の衝突が激化している。今般の衝突は、3月31日~4月4日までの短期間の間にイスラエルによるシリア領への攻撃が4度も行われるなどの軍事的な緊張が高い中で発生している。状況は、レバノンやシリアからイスラエルやその占領地に対するロケット弾発射という近年では異例の事態が発生するなど、より広範囲で大規模な軍事衝突に発展することも危惧されるに至っている。ここまでの主な動きは以下の通り。 

日付

主なできごと

4月5日

未明にイスラエルの警察がアクサー・モスクに突入、モスク内にいたパレスチナ人350人を逮捕したり退去させたりした。

4月5日

ガザ地区からロケット弾が発射され、イスラエル軍が同地区を空爆した。

4月6日

レバノン南部からイスラエルに対しロケット弾30発以上が発射された。イスラエルはハマースの仕業と主張してレバノン領とガザ地区を空爆した。

4月7日

ヨルダン川西岸地区でユダヤ人入植者に対する銃撃事件が発生。2人が死亡した。(事件で負傷した1名も後日死亡した。)

4月7日

テルアビブで外国人観光客の集団にアラブと思われる者が運転する自動車が突っ込み、イタリア人1人が死亡した。運転手はイスラエルの警察が殺害した。

4月9日

シリア領からゴラン高原の占領地に対し2度にわたりロケット弾計6発が発射された。イスラエル軍はシリア南部の複数個所を攻撃した。

4月10日

ユダヤ人入植者多数がイスラエルの警察の護衛を受けつつアクサーモスクに侵入した。

4月10日

イスラエルのネタニヤフ首相が、3月下旬のガランド国防相の罷免を撤回した。

  

評価

 上記の通り、レバノンやシリアからのロケット弾の発射は近年では異例のできごとではある。その一方で、これらのロケット弾の発射への「報復」と称してイスラエル軍が行った攻撃では死傷者や大きな被害があったとの情報はない。これは、近年日常的におこなわれるようになったイスラエルによるシリア領への攻撃で多数が死傷したり、国際空港のような重要な社会資本が破壊されたりしていることに比べれば規模・質の面で低調な攻撃といえる。現時点では、ロケット弾を発射した側もイスラエルも事態を大規模な交戦に発展させないよう行動を抑制しているように思われる。このような展開については、ネタニヤフ政権による司法制度改変に反対する抗議行動が続き、一時国防相が罷免されるなどイスラエルの政局が不安定となる中、イスラエル政府が外敵との軍事的対立を理由に国内での対立を一時的に先送りしたり、反政府世論を抑制したりする「旗下結集効果」を期待して振る舞っている可能性も考えられる。

 一方、近年、パレスチナなどでのアラブ・イスラエル紛争への国際的な世論・報道機関の関心は著しく低下している。今般の事態についても、当事者となる団体について誤認・混同した報道も散見される。9日のシリアからの砲撃について、「エルサレム旅団(Liwa’al-Quds)」が自派の作戦であると発表したとの情報がある。「エルサレム旅団」は、シリア紛争でシリア政府に与して編成されたシリア在住パレスチナ人による民兵である。ところが、「エルサレム旅団」をパレスチナ・イスラーム聖戦(PIJ)の軍事部門である「エルサレム隊(Saraya al-Quds)」と混同する報道やSNS上での書き込みが一部でみられる。今般の衝突に限らず、政治・経済・安全保障上の重大な事件に発展しかねない問題については、その当事者についての情報を正確に把握し、堅実に情報を発信することが必要である。


(協力研究員 髙岡 豊)

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