中東かわら版

№18 シリア:シリアのアラブ連盟復帰

 2023年5月7日、アラブ連盟はカイロで臨時外相会合を開催し、2011年にシリア・アラブ共和国に科した参加資格の凍結を解除すると決定した。これにより、シリアはアラブ連盟とその傘下の諸機構への参加を再開することとなり、5月中に開催予定のアラブ首脳会議にアサド大統領が出席することも論理的には可能である。なお、シリア紛争勃発以来、反体制派支援との名目でイスラーム過激派を支援し続けてきたカタルは、シリアの参加資格が凍結された原因が解消されていないとの立場を保ったが、決定そのものには反対しなかった。アメリカやEU諸国は、シリアとの関係正常化を否定し、同国に対する制裁継続を強調したものの、やはりシリアのアラブ連盟復帰そのものを止めたり拒絶したりする立場にはない。

 今般の決定には、シリア紛争の諸当事者からも様々な反応が出ている。8日付の『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)は、「反体制派」寄りの活動家や団体複数の反応を要旨以下の通り報じた。

*バドル・ジャームース(国連が後援する和平交渉の「反体制派」交渉団の団長。交渉は現在全く行われていない):復帰決定はシリア人に対する打撃であり、政治過程を殺すことだ。我々(=「反体制派」)は、この決定について相談を受けていない。

*シリア・キャンペーン(シリアでの人権侵害被害者の保護団体):決定は、ひどい便りであり、自由と民主主義のアラブの春の希望の棺桶に打ち込まれる最後の釘だ。

*シリア民主評議会(シリア北東部を制圧するクルド民族主義勢力を主力とするシリア民主軍の政治部門)は、8日に決定を歓迎する声明を発表した。

*カドリー・ジャミール(シリアの元副首相):決定は、(シリアが)アラブの中での役割を回復する文脈でのもので、シリア問題の中で前向きなできごとだ。

 

 なお、かつて「反体制派」を統合する組織として国際的な支援を受けていた「シリア国民連立」は、7日に今般の決定を拒否・非難する声明を発表した。しかし、アラブの主要報道機関も、国際的な報道機関も「国民連立」の声明を報道・引用していない。 

評価

 今般の決定に対しては、シリア紛争で実際の戦闘を担うイスラーム過激派からの反応を取り上げた報道が見られない。ただし、「イスラーム国」やシャーム解放機構(=シリアにおけるアル=カーイダ)を含むイスラーム過激派は、いずれも交渉を通じたシリア紛争の解決はもちろん、シリア政府をはじめとするアラブ諸国やイスラーム諸国の正当性を認めない発想に基づいて活動しているため、諸派の反応は「お決まりの」ものとなる可能性が高い。一方で、シリア紛争勃発以来、カタル、クウェイトなどアラブ諸国の一部は、そうと知りつつイスラーム過激派を「シリアの反体制派」として支援し続けており、支援の対象にはシャーム解放機構も含まれている。

 シリアの復帰についての決定では、難民、テロの脅威、麻薬の密輸という、シリアだけでなく近隣諸国にとっても重大な懸念事項に対処することが謳われている。問題に対処するため、ヨルダン、サウジ、イラク、レバノン、エジプト、アラブ連盟事務局長からなる連絡委員会が設置された。今後は、アサド大統領のアラブ首脳会議出席などのシリアの形式的な復帰ではなく、関係国の懸念事項に当事者が具体的にどのような措置をとるかが重要になる。このため、最近のシリアとアラブ諸国との関係改善の中で表明された諸措置(例:シリアとサウジとの間の大使館の領事業務再開と両国間の航空便の再開、チュニジアとシリアとの間の大使の相互派遣)が着実に実行されるかが、シリアのアラブ連盟復帰の実態を測る指標となるだろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP