中東かわら版

№47 サウジアラビア:ハッジ期間の開始と周辺国からの就航状況

 2023年6月26日~7月1日は、イスラーム暦(ヒジュラ暦)1444年のメッカ巡礼(ハッジ)期間に当たる。このため、6月半ばより世界各国からイスラーム教徒がメッカの玄関口であるサウジアラビアのジェッダに到着していた。この中でも注目を集めたのは、3月と5月にそれぞれサウジと国交を再開したイランとシリアからの巡礼者である。

 イランからは、サウジ側のイラン人に対するホテル手配等のサービスの質が向上しているとの声が上がっており、両国間の国交回復の影響がうかがえる。なお今期の巡礼者数は約260万人と見込まれており、内イラン人は8万7550人である。

 シリアに関しては、サウジと国交がなかった過去10年、巡礼者はサウジ政府が招待した反体制勢力に限られており、今期もそれは変わらない。しかし国交回復をうけて、シリア政府は2024年には巡礼団の組織を再開する旨を発表した。

 この他、6月18日にイエメン人の巡礼者270人を乗せたイエメン航空(Yemenia)便がサナアからジェッダに到着したことが注目を集めた。サナアは2014年以来、サウジと対立するアンサールッラー(フーシー派)の拠点であり、同地からサウジへの直行便は2016年以来、初となる。

 一方、今期ハッジにあわせてサウジへの直行便就航を見据えていたイスラエルは、同20日にハネグビ国家安全保障議長から、今期は不可能との見方が示された。イスラエルはかねてより、米国を交えたサウジとの交渉を経て、ジェッダへの直行便就航が近く実現するとの見通しを述べてきた。

 

評価

 イラン・サウジについては、ひとまずハッジを舞台に、サウジとの国交回復による好影響が現れていることが示された。またイエメンについては、サウジ・フーシー派関係は2023年4月の協議以来、特に進展がないものの、戦争開始以来、最も摩擦や衝突が少ない状態にあるとされる。サウジが後ろ盾となっている国民救済政府の暫定首都アデンではなく、サナアからサウジへの就航便が一時的とはいえ再開されたことは、そうした現状を反映しているといえよう。

 一方、サウジとの交渉は順調とアピールし、就航便実現に自信を見せていたイスラエルは、ハッジ目前にそれを断念した。イスラエルとしては、ネタニヤフ首相が取り組む司法改革や、政府の反LGBTQな姿勢が市民の批判を浴びる中、サウジとの関係正常化という外交成果を上げることを狙い、その外堀の一つとしてハッジを利用としたと考えられる。しかし、もとよりイスラエルとの事前交渉についてサウジ側が触れることはなく、むしろ世界のイスラーム諸国と良好な関係を保ち、信頼を得るためのハッジ期間が、イスラエルによって政治利用されることへの警戒があっただろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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