中東かわら版

№87 トルコ:アンカラで自爆攻撃が発生

 イェルリカヤ内相は、2023年10月1日午前9時26分、アンカラの内務省入口ゲート前で自爆攻撃が発生し、実行犯2名が死亡、警察官2名が軽傷を負ったと発表した。同内相は、この攻撃で実行犯の1名が自爆、もう1名は治安当局によって即座に「無力化」されたと明かし、最後のテロリストを排除するまで戦いは続くと強調した。

 情報筋は、今回の攻撃に使用されたミニバンが中部カイセリ県で盗まれた盗難車両で、乗っていた運転手(24歳、男性獣医師)は殺害されたと明らかにした。さらに捜査段階としながらも、実行犯2名は車両窃盗後に中南部のアダナ県で武器と爆薬を受け取った後、アンカラに移動し犯行に及んだとの見方を示した。事件後に行われた車両の捜索では、9700グラムのC-4爆薬、ロケットランチャーを含む複数の武器、弾薬が押収された。

 同日夕方、反政府武装組織のクルディスタン労働者党(PKK)は、今回の自爆攻撃がPKKの軍事部門である人民防衛軍(HPG)傘下の「不死身の大隊(Ölümsüzler Taburu)」によるものとの犯行声明を出した。PKKは同声明の中で、「この偉大で歴史的な行動は、我々の同志ロジハト・ズィランとエルダル・シャーヒンによって実行された」と述べ、実行犯の氏名を公表した(注:同声明では今次攻撃を「犠牲行為」と表現したが、これは事前に自爆攻撃として計画していたことを示している)。

 また内務省は、もう1名の身元は確認中としたうえで、1名がPKKメンバーであることが確認されたと発表した。

 

評価 

 

 10月1日は、トルコ大国民議会(国会)開会日であり、エルドアン大統領の開会演説が予定されていた。襲撃事件は、開会数時間前に国会からわずか数百メートルの距離にある内務省が標的とされたことから国内に衝撃を与えた。同日14時に開会した議会演説でエルドアン大統領は、この攻撃が「テロの最後の努力」であるとして、シリア、イラクのPKK拠点に対する新たな軍事作戦の実施を示唆した。

 トルコは、2019年10月以降シリア北部で、2022年4月からはイラク北部の国境地域で、PKK拠点に対する本格的な軍事作戦を断行しており、これまでに主要幹部を含む多数の戦闘員を「無力化」している。エルドアン政権はテロ根絶を掲げ、強気な姿勢を崩していないが、2022年11月13日にイスタンブル中心部でPKKの犯行とみられる爆破事件が発生し、子供を含む市民6名が犠牲となった。イスタンブルでの事件から約1年後となる今般の内務省襲撃事件においても、直前に一般人が殺害される等、国内で治安悪化への不安が広がっている。

 政府はこれまで、国内におけるPKKの活動は完全に統制されていると強調してきたが、大統領、閣僚、国会議員等が一堂に会する重要な日に、被害が少なかったとはいえ、治安維持を主務とする内務省への攻撃を許したことは、諜報活動の弱点を突かれたと指摘されても仕方がないだろう。

 公式情報筋は、PKKが自爆攻撃を断行した背景には、シリア、イラク北部でトルコ軍が実施している越境軍事作戦の影響を受けていないとするメッセージを、世論と国内外の支持者双方に示す狙いがあったとの見解を示した。今国会では、スウェーデンのNATO招請にかかる審議が予定されているが、PKKと無関係の一般市民が犠牲となった今回の事件に対する国民の関心は高く、議会判断に影響を与えるか否かは今後の注目点となろう。

 トルコでは、建国100周年となる10月29日の前後に記念行事が予定され、各国要人の往来も活発化することから、厳戒態勢が一層強化されるものとみられる。

 

【参考】

「トルコ:イスタンブル繁華街での爆発で多数の死傷者」『中東かわら版』2022年度No.116。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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