中東かわら版

№88 リビア:ハフタルLNA総司令官のロシア訪問

 2023年9月26~28日、リビア紛争における東部勢力の中心人物、ハフタル・リビア国民軍(LNA)総司令官がロシアを訪問した。ロシア国営通信社『タス通信』によると、ハフタル総司令官はロシア訪問中、プーチン大統領やショイグ国防相と会談し、リビアやその周辺諸国の情勢について協議した。ハフタル・プーチン両者の会談実施は2019年以来であった。

 

評価 

 ハフタルのロシア訪問の目的は、ロシア民間軍事会社「ワグネル」の創始者プリゴジンの死去を受け、ロシアによる支援継続を確かめるためである。8月23日の航空機爆発により、プリゴジンのほか、軍事部門指導者のウトキンや、ビジネス活動担当のチェカロフも死亡し、ワグネル指導部が一掃された。これにより、これまでワグネルから軍事的支援を受けてきたハフタルに対するロシアの支援の行方に注目が集まっていた。こうした中、ハフタル自らがロシアに足を運び、プーチン大統領やショイグ国防相との関係維持に努めたと言える。

 一方のロシアもプリゴジン死去以後、ハフタル側の不安を払拭させるため、エフクロフ国防次官が今年8月及び9月にリビア東部を訪問し、ハフタルと会談した。また、東部での洪水被害時にはロシアの救助隊を派遣し、東部勢力に寄り添う姿勢を見せた。ロシアのリビア関与の背景には、ロシアがリビアを重要国と捉えていることがある。それは、ワグネルが掌握するリビア各地の空軍基地は、シリアとの地中海横断のロシア軍用機飛行ルートの要であるとともに、アフリカ進出への足場でもあるからだ。

 ワグネル指導部の死去により、この先、同社がロシア国防省の傘下に入り、ロシア政府が同社への統制を強化していく可能性が考えられる。『ロイター通信』によると、ワグネル元司令官で国防省勤務のトロシェフとエフクロフ国防次官は9月28日にプーチン大統領と会談し、傭兵の扱いについて協議するなど、両者がワグネルの運営を主導していく見方がある。現在、ワグネルが展開するリビア及びマリの隣国ニジェールでは、7月末に起きた軍事クーデターに伴い、反仏路線の軍事政権が発足したことを受け、フランスが駐留部隊の撤収を表明した。これにより、ワグネルがニジェールに進出する素地ができつつあることから、今後もロシア政府は、ワグネルのアフリカでの影響力を通じて経済利権を拡大させていくだろう。

 

【参考】

「民間軍事会社「ワグネル」の中東・アフリカ進出――地中海からアフリカに広がるロシアの影響力――」『中東分析レポート』No.R22-04。※会員限定

「リビア紛争:外国軍及び外国人傭兵の駐留問題」『中東分析レポート』No.R21-09。※会員限定

 

(主任研究員 高橋 雅英)

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