中東かわら版

№89 エジプト:UAEとの通貨スワップ協定

 2023年9月28日、エジプト中央銀行とアラブ首長国連邦(UAE)中央銀行の両総裁は、エジプト・UAE間の通貨スワップ(交換取引)協定に署名した。同協定により、両中銀は、最大420億エジプトポンド(13億6000万ドル)と50億UAEディルハム(13億6000万ドル)の交換が可能となる。エジプト中央銀行のアブドッラー総裁は、今次スワップ協定は両国間の貿易の円滑化と拡大に貢献するとともに、金融協力の基盤となると述べた。

 

評価 

 エジプトがウクライナ危機に伴う世界的な食料・燃料価格の高騰を受け、外貨不足や高インフレなどの経済的苦境に陥る中、UAEが通貨スワップ協定を通じてエジプト支援に乗り出した。UAEはエジプトにとって最大の投資国であり、UAEの投資額は2021/22年度に対エジプト投資総額の約25%に達した。また、UAEがエジプト中央銀行への長期低利預金や借款貸付も行うなど、エジプト経済はUAEへの依存度が非常に高い。こうしたUAE(並びにサウジ・クウェイト)の経済支援がなければ、シーシー政権は2014年の政権発足直後、前政権期に悪化した経済を立て直せず、国民の社会不満を抑えられなかった可能性があっただろう。

 シーシー政権が経済安定化を急ぐ背景には、シーシー大統領が今年12月の大統領選挙で再選を目指していることがある。大統領選挙は当初、現任期(2024年6月まで)の満了直前に実施されるとの見方があったが、エジプトの国家選挙庁(NEA)は9月25日、選挙を12月10~12日に行うと発表した。シーシー大統領はすでに連続2期を務めているが、2019年4月の憲法改正により3期目の出馬が可能となり、10月2日に次期選挙への立候補を表明した。有力な対抗馬が現れないと予想され、選挙は大統領の信任投票の色合いが強くなっていることから、シーシー大統領は湾岸諸国からの経済支援を得ながら、国民生活に直結する経済課題に優先的に対処し、国民からの支持集めを図っていくだろう。

 

【参考】

「エジプトの対UAE関係 ――経済支援と東アフリカ情勢での競合――」『中東分析レポート』No.R23-04。※会員限定

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP