中東かわら版

№92 トルコ:シリア北部のPKK/YPG拠点への攻撃実施

 トルコ国防省は、10月5日にシリア北部のクルディスタン労働者党(PKK)、クルド人民防衛隊(YPG)の拠点30カ所に対して空爆を行ったと発表した。

 国防省は、「国民と治安部隊に対するテロの脅威を排除し、わが国の国境の安全を確保するため、国連憲章第51条の自衛権の行使に基づき、2023年10月5日23:00、シリア北部のタッル・リファアト、ジズィレ、ディーリーク地域の標的を空爆した」との声明を発表した。同省は、軍事作戦において、油井や貯蔵施設、PKK/YPG幹部を含むメンバーが潜伏していると思われる洞窟、シェルター、倉庫等の破壊及び、多数のテロリストの無力化に成功したことを強調するとともに、攻撃する瞬間の映像も公開した。

 また、軍の攻撃に先立ち国家情報機構(MİT)が、5日午前にシリア北部のPKK/YPGの武器・弾薬庫、工作部隊の拠点を攻撃したことも明らかにした(これらに加え、発電所を攻撃したとの情報もある)。

 米国防総省のライダー報道官は、5日にシリアのハサカ県近郊で無人攻撃機(ドローン)が米軍の作戦制限区域内に二度(7:30と11:30)にわたって侵入したため、現地司令官が潜在的な脅威と判断し、11:40に撃墜したと発表した。これを受け、ギュレル国防相と米国のオースティン国防相、及び、両国の参謀総長がそれぞれ電話で協議し、二国間で緊密な連携を維持することを再確認した。

 

評価 

 今般のシリア北部への攻撃は、10月1日にトルコ内務省前で発生した自爆攻撃に対する報復措置である。10月4日、フィダン外相は、1日の自爆攻撃がシリアで計画されたものであり、実行犯2名がシリアでの訓練後にトルコへ入国したことを確認したと発表した。それと同時にイラク、シリア内のPKK/YPGに関するインフラ設備、エネルギー施設は、現在トルコの治安部隊、諜報機関の合法的な標的となっていると強調し、国内外に向け、こうした施設やPKK/YPGとの関与が疑われる人物には接近しないよう警告を発した。ギュレル参謀総長もフィダン外相と同様の発言をしていたことから、近いうちに報復措置が取られるとの見方が強まっていた。

 トルコは今次越境軍事作戦の正当性、戦果を強調するが、シリアで民間人の犠牲者が発生したか否かについては公表されていない。また、シリアの米軍基地付近でドローンが撃墜されたことも対米関係の溝をさらに深めることになりかねない。米国防総省のライダー報道官は、ドローンの制限区域内への侵入を「遺憾な出来事」としながらも、米軍を意図的に標的とした形跡はなく、負傷者も出なかったと明かした。一方、トルコ軍関係者は、撃墜されたドローンがトルコのものではないと主張し、この点において米国側の発表と食い違いがみられる。この背景に何があるのかは不明ながら、両国の軍関係者のトップが直後に電話会談していることに鑑みても、撃墜されたドローンがトルコと無関係とは考えづらい。米国のNATO同盟国であるトルコへの攻撃は前例がなく、今後の二国間関係への影響も懸念される。

 トルコは自国の安全が保障されるまでPKK/YPG、「イスラーム国」を含むテロとの戦いを継続する旨、繰り返し強調してきた。国内で約1年ぶりに発生したテロにより、またも一般市民が犠牲となったことで、国内の反PKK感情も高まっている。断固とした措置を取らなければ国民の反発を受けることは必至であることからも、政府は、テロとの戦いに対する強硬姿勢をさらに鮮明にするとみられる。

  

【参考】

「トルコ:イスタンブル繁華街での爆発で多数の死傷者」『中東かわら版』2022年度No.116。

「トルコ:アンカラで自爆攻撃が発生」『中東かわら版』2023年度No.87。

  

(主任研究員 金子 真夕)

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