中東かわら版

№93 チュニジア:大統領がEUの財政支援を拒否

 2023年10月2日、サイード大統領はアンマール外相との会談で、欧州連合(EU)からの資金の受け入れを拒否すると述べた。チュニジア・EUが今年7月に調印した約10億ユーロの支援に係る覚書にもとづき、欧州委員会は9月22日、チュニジアに対し1億2700万ユーロ(財政支援:6000万、不法移民対策:6700万)の供与を発表した。しかし、サイード大統領は、チュニジアは協力を受け入れるが、慈善や施しに似たものは一切受けとらないと拒否の考えを示し、その理由は、支援額の規模が小さいからではないと説明した。

 一方のEUは翌3日、バールヘイ近隣・拡大政策担当委員が、7月の取り決めとは関係のない「COVID-19から経済復興支援金」として、6000万ユーロをチュニジアに送金したことを明らかにした。そして、チュニジアには資金を送り返す自由があるが、今のところ返金した形跡はないと述べ、EUとの対立姿勢をとるサイード大統領の言動を牽制した。

 

評価 

 今般、サイード大統領がEUの財政支援を拒否した背景には、EU発表の支援額が7月の合意額よりも大きく下回っていたことがある。チュニジア経済が深刻化し、財政上の頼みの綱であるIMF新規融資の最終承認が遅れる中、サイード大統領は、EUが優先課題に掲げる不法移民対策に積極的に協力することで、7月に大規模な財政支援を獲得する道筋をつくった。他方、EUからの財政支援の大部分はIMFと同様に、チュニジアの経済改革を条件としており、EUが今回発表したような無条件援助は少額である。しかし、サイード大統領は自らの経済対策を不十分だとEU側に評価されたことに反発し、EUとの対立を強める結果となった。

 チュニジアの債務不履行リスクの高まりが懸念される中、サイード大統領がこの先、EUとのもう一つの取り決めである、不法移民対策に注力するのかが注目される。チュニジアはリビアと並び、地中海を渡って欧州に入る移民の出発地であり、チュニジアからの渡航を目指しサブサハラ・アフリカ諸国出身者が大挙して押し寄せている。9月には、イタリア南部のランペドゥーサ島に2日間で島民よりも多い約7000人が到着する事態が生じ、チュニジアの移民斡旋業者の関与が強く疑われている。こうした状況下、サイード政権が斡旋業者の取り締まりや厳格な国境警備に対応しなければ、欧州への不法移民数が更に増加すると予想されるため、EUとしては、チュニジア情勢の安定化に向けたサイード政権への支援継続はやむを得ないだろう。

(主任研究員 高橋 雅英)

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