中東かわら版

№15 カタル:国家再生可能エネルギー戦略を発表

 2024年4月27日、カタル電力・水公社は「カタル国家再生可能エネルギー戦略(QNRES)」を発表した。QNRESは、カタル政府が掲げる「カタル国家ビジョン2030」や「第3次カタル国家開発戦略2024-2030」に沿って、2030年に向けて太陽光発電の導入促進と温室効果ガスの排出削減を図っていくためのものである。QNRESでの主な目標は、以下の通りである。

  • 大規模な再エネ発電の設備容量を4ギガワット(GW)まで拡大し、電源構成に占める再エネの割合を現在の5%から18%まで引き上げること。
  • 最大 200メガワット(MW)の分散型太陽光発電を導入すること。
  • 電力部門で二酸化炭素(CO2)の年間排出量を10%削減すること。また、年間のCO2排出原単位を発電1単位あたり27%削減すること。

 

評価

 今般のQNRESは、カタルが2030年までに取り組むべきクリーンエネルギー政策を具体的に示したものである。カタルにおける再エネ発電の導入状況については、ドーハ西方80kmに800MWの設備容量を擁すハルサー太陽光発電所があるのみで、GW級の太陽光発電所を建設済みのアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアと比べ、設置が遅れている。この背景には、カタル国内で多量の天然ガスを産出できるため、発電比率の9割を占めるガス火力発電の発電コストを安価に抑えられている事情がある。

 こうした中、カタルが再エネ導入を本格化させている理由として、発電用ガス消費を抑制することや、液化天然ガス(LNG)生産施設を低炭素化することが挙げられる。まず、電力需要は人口増加や経済規模の拡大に伴い、2014~2022年の期間に約40%増え、ガス消費量も増加傾向にある。このため、カタルは再エネ普及を通じて、ガス火力に依存する電源構成を多角化できれば、余剰分のガスを輸出用に割り当て、ガス輸出量を伸ばせる見通しだ。カタルは2030年までにLNGの年間生産能力を1億4200万トン(現在比のプラス84%)に増やす計画も進めており、可能な限り多くのLNGを輸出し、ガス収入の拡大を目指している。

 次に、太陽光発電由来の電力をLNG生産施設に供給することは、LNGサプライチェーンの低炭素化につながるメリットがある。世界的な脱炭素化の流れの中、天然ガスの生産を継続する上で、産出・転換過程のクリーン化が不可欠となっている。カタルもLNG生産プロセスでの排出抑制の重要性を強く認識しており、LNGの一大生産拠点であるラアス・ラファーン工業地区でも太陽光発電の新設に向けて動いている。このように、カタルは財政基盤を支える最大の外貨獲得源であるガス産業を活かす手段として、再エネの役割に期待を寄せていると考えられる。 

(主任研究員 高橋 雅英)

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