中東かわら版

№17 エジプト:ガス不足の深刻化を受け、LNG輸入の拡大へ

 2024年5月2日、エジプト天然ガス公社(EGAS)は、ノルウェー企業「ホーグLNG」及び「オーストラリアン・インダストリアル・エナジー(AIE)」との間で、浮体式LNG(液化天然ガス)貯蔵・再ガス化設備(FSRU)をエジプトに配備することに合意した。これにより、エジプトは国外から輸入したLNGを同設備で再気化し、国内ガス市場に供給することが可能となる。FSRUは、スエズ南方の紅海沿岸のアイン・スフナ港に2024年6月から19~20カ月間にわたって設置される予定である。その後、オーストラリア東部のポート・ケンブラに建設中のAIE社のLNG受入基地に移される計画である。

 

評価

 エジプトのLNG動向については、2015年にガス需要の高まりを受け、エジプトはアイン・スフナ港に2隻のFSRU、「ホーグ・ガレオン」船及び「スメド」船を配備し、LNG輸入を開始した。その後、大規模ガス田「ゾフル・ガス田」での生産が2017年に始まったため、ガス自給率の向上を見込んで、2018年に「ホーグ・ガレオン」船を撤去した。また、2022年7月に「スメド」船の所有権がシンガポール企業からイタリア企業に移り、同船のイタリア配備が決まったことを受け、エジプトはチャーター契約(2023年11月満期)を更新できず、同船も手放した。その結果、エジプトの再ガス化容量がゼロとなり、LNG輸入が困難となった。

 こうした中、エジプトがLNG輸入に向けてFSRUの再配置に動いたことは、ガス不足の深刻さを反映している。ゾフル・ガス田の生産量が減少し、またイスラエルからのガス輸入も2023年10月からのガザ戦争の影響により、一時的に低迷した。ガス不足の影響は、電力部門とLNG輸出に及び、電源構成の8割を占めるガス火力発電所が発電不調に陥り、計画停電の実施を余儀なくされた。また、エジプト産LNGの輸出量も減少し、貴重な外貨収入源が失われた。

 この先、エジプトがLNG輸出量を拡大させるには、ガス生産量を増やしつつ、発電用ガス消費を減少させる必要がある。1億人以上の人口を抱えるエジプトでは、夏季の電力需要は常に逼迫しており、発電量も年々、増加傾向にある。この点から、エジプトはガス火力発電所の発電負担を軽減するため、計画中の太陽光・風力発電の導入を急ぐことが求められる。

 また電源多角化に向けて、エジプト北部で建設中のダバア原子力発電所も重要な役割を担う。ロシア製のダバア原発(設備容量120万キロワットの原子炉4基)の建設工事は、1~2号機が2022年、3号機が2023年、4号機が今年1月に始まり、2028年までに商業運転の開始が見込まれる。完工まで時間を要すものの、ダバア原発による大規模発電は、発電用ガス消費の抑制に加え、電気料金の引き下げや、クリーンエネルギーの発電割合の上昇にも寄与するだろう。他方、エジプトはダバア原発の総工費85%(約250億ドル相当)をロシアの政府融資からカバーしていることから、ロシアへの債務は将来的にエジプトの財政負担となる恐れがある。

 

【参考】

高橋雅英「中東の原子力発電市場におけるロシア――燃料供給国としての強み」『中東研究』第547号、2023年5月。

(主任研究員 高橋 雅英)

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