中東かわら版

№18 イスラエル:ハマースとの休戦提案を拒否し、ラファフで軍事展開

 2024年5月9日、ガザ地区南部ラファフでイスラエル軍が戦車と戦闘機による爆撃を実施したことが報じられた。先立ってイスラエルは、ハマースが合意した休戦提案を拒否することを決定しており、そのための間接交渉の役割を負っていた代表団も既に交渉場所であるカイロを出発した。

 上記決定の前、米国のバイデン大統領は、イスラエルがラファフに侵攻した場合、一部の武器輸送を凍結するとの警告をイスラエルに送っていた。これに対してイスラエル側は、バイデン大統領のメッセージを非難しつつ、国防軍(IDF)が記者会見で任務遂行のための十分な弾薬を保有していると発表し、またネタニヤフ首相も、「必要であれば爪ででも戦う」と述べて、改めてラファフ侵攻への決意を表明した。

 

評価

 アラブ側から見れば、イスラエルとのチャンネルはあるがハマースとの関係は良好でないエジプト、イスラエルを非難し、ハマースを支援し続けてきたカタルの2カ国が主導する休戦提案交渉は、バランスが取れたものに映る。しかしイスラエルとすれば、そもそもカタルは信用に足る相手ではなく、同交渉にはもとより期待薄の感が禁じえなかった。

 イスラエルの拒否決定に先立ち、休戦提案の内容が一部メディアで報じられたが、それによれば同提案は三段階(各6週間の停戦)から成り、第一段階には人質・囚人交換と並行してイスラエル軍がラファフ周辺から撤退(移動)することが盛り込まれており、以降は具体的な内容がないものの、最終的にガザの復興を3~5年かけて行うというものであった。これでは、イスラエルがガザ戦争の目的として掲げてきた「人質の奪還」と「ハマースの殲滅」の内、前者しか達成できず、しかもそれすら不透明である。イスラエルからすれば、ハマースの解体を条件としない撤退は敗走にあたり、当然ながら上記提案を「ハマース寄り」と見なす。

 今後、イスラエルがラファフへの大規模な侵攻を開始するのか、米国が凍結する一部の武器輸送とはどの程度・範囲なのかはまだ不透明な点が多いが、ガザ戦争(戦時内閣)の継続によってネタニヤフ首相が自身の政治生命を維持していることを踏まえれば、イスラエル側が即座に大規模な作戦に踏み切る可能性は依然として低い。その意味で、米国の武器輸送制限はネタニヤフ首相が見据える戦争の「適度な長期化」に資する面もあるだろう。

 ただし、それはラファフ侵攻に限った話である。IDFの発表にあった通り、イスラエルがラファフ侵攻に必要な武器・弾薬を十分に有している可能性は高い。しかし仮にレバノン・イラク(シリア)側からのイスラエルに対する攻撃が激化し、IDFが波状的な対応を余儀なくされれば、戦争の長期化がイスラエルにとって不利な状況をもたらす可能性も否定できない。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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