中東かわら版

№19 シリア:バアス党最高機関の改選

 2024年5月4日、バアス党は中央委員会拡大会合を開催し、バッシャール・アサド大統領をバアス党書記長に選出するとともに、中央指導部(14人)、中央委員会(各支部から選出した80人+書記長が選出した45人)を選出した。中央指導部の部員は以下の通り。

氏名

特記事項

イッザト・アラビー・カーティビー

人民議会議員(ダマスカス)

サフワーン・スライマーン・アブー・サアディー

ダマスカス郊外県知事(2022年‐2024年5月)

マフムード・ザンブーア

ハマ県知事(2022年-2024年5月)

イブラーヒーム・ハディード

バアス党アレッポ大学支部長

ファーディル・ナッジャール

 

アイマン・ダカーク

 

ターハー・ハリーファ

フラート大学学長、人民議会議員(ダイル・ザウル)

サミール・フダル

 

ファーディル・ワルダ

人民議会議員(ハマ)

ヤーシル・シャーヒーン

退役少将

ジャマーナ・ヌーリー

女性

ハンムーダ・サッバーグ

人民議会議長(2017年‐)

フサイン・アルヌース

首相(2020年‐)

アリー・アッバース

国防相(2022年‐)

評価

 今般のバアス党の人事は、憲法改正(2012年)、アラブ諸国間の合意に沿った党組織の改編(2018年ごろ)などを経て党組織を改変した後のことだ。バアス党は、形骸化していたとはいえアラブ諸国の各国で活動するバアス党を指揮する役割を担う「民族指導部」と、個々の国の活動を指揮する「地域指導部」を擁していたが、近年個々のアラブの国で活動する諸政党は外国からの指揮を受けないことでアラブ諸国間の合意が形成されたこともあり、2018年ごろに組織を改編していた。この改編により、「地域指導部書記長」を「書記長」、「地域指導部」が「中央指導部」、「地域指導部大会」が「総会」に改められた。

 2012年の憲法改正で、バアス党が「国家と社会を指導する党」と規定した条項が削除されたことにより、バアス党と様々な国家の機関との関係も変化するべきところだが、同党は憲法改正後も人民議会の議席のおよそ3分の2を占める与党として活動しており、人民議会議長、首相、国防相、複数の県の県知事が中央指導部の部員に選出された。

 今般の人事に対するアラビア語の報道機関の関心は低く、バアス党内の力関係や同党がシリアの政治・社会で果たしてきた役割、同党の幹部の人材供給源などについての分析はほとんど行われていない。しかし、バアス党は長年政府や軍を指導するような地位についていない軍・情報機関やアサド家の有力者が、同党の役職に就くことを通じて政府・軍を指揮する機関としての役割を果たしてきた。今般の人事では、アサド大統領の弟でシリア軍の精鋭部隊を指揮するマーヒル・アサドが中央委員に選出されている。さらに、バアス党はシリア紛争を通じて動員された親政府民兵の幹部を党所属の人民議会議員として取り込む機能を果たすようになっていることから、中央指導部・中央委員会に選出された者の出身母体についての情報収集や分析の意義は依然として高い。同様のことは、シリア紛争を経て社会的な役割や重要性が拡大した女性団体や慈善団体についても言える。

(協力研究員 髙岡 豊)

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