中東かわら版

№20 アフガニスタン:北東部バダフシャーン州でターリバーンへの抗議活動が発生

 2024年5月3~4日、北東部バダフシャーン州の2郡(ダラーヤム郡、アルゴ郡)において、ターリバーンによるケシ撲滅活動に反対する住民らが抗議活動を行った。5月4日付『BBCペルシャ語放送』によると、事の発端は、ターリバーンがケシの耕作地を破壊した上で農民らに嫌がらせをしたことにあった。その後、住民らが抗議活動を行う中、ターリバーンによる発砲によって住民2人が死亡、1人が負傷した模様である。現地からの映像では、一人の男性が抗議集会において、ターリバーンは抑圧的であり人民の名誉、健康、血を大切に扱っていないと声高に批判している様子がみられる。

 事態の発生を受けて、ターリバーンのムジャーヒド報道官は4日、フィトラト軍参謀長(タジク人)を長とする問題解決のための委員会を設置したと発表した。7日付『トロ・ニュース』(独立系)によると、フィトラト軍参謀長はたしかに誤解に基づく係争があったものの、話し合いの末に住民は納得し、抗議活動は沈静化したとの認識を示した。こうした状況下、同州都ファイザバード市において8日、援護のために隣州から駆け付けたターリバーン治安部隊員らの乗る車両に対する爆発が発生し、3人が死亡、8人が負傷する事件が発生した。同日、「イスラーム国ホラーサーン州」が実行を認める声明を発出した。

 

評価

 今次事案は、ターリバーンによる一強支配が続く中で、一般住民らが同勢力に対して批判の声を挙げた点で特筆される。2021年8月15日以来、アフガニスタンではパシュトゥーン人主体のターリバーンによる実効支配が続いており、反ターリバーン勢力の活動は全般的に低迷していた。こうした中で、武器を持つターリバーンに対して、住民らが日頃の不満を爆発させ、治安部隊による鎮圧を恐れず抗議集会を開催したわけである。雪解けに伴い、アフマド・マスード率いる国民抵抗戦線やアフガニスタン自由戦線などが春季攻勢を仕掛けているものの(注:但し、指導者は国外在住)、現在までにターリバーン支配の構造に大きな変化はみられない。今次事件は、一国の実効支配勢力として、ターリバーン指導部としても支配領域の住民から不満の声を汲み取り解決しなければならないことを示している。なお、事件が起こったバダフシャーン州はタジク人住民が多いことで知られる。

 今次事件を通じて、ターリバーンの推し進めるケシ栽培撲滅政策が順調に進んでいないことが明らかになって点も示された。戦乱に苛まれてきた同国では、麻薬栽培はほぼ唯一の外貨・現金獲得手段として長年利用されており、依然として地方部で栽培が続けられている。こうした事情から、ターリバーン治安部隊が一掃しようとすれば住民からの反発を招くことは必至である。ターリバーンが農民らに代わりとなる換金作物の栽培方法を教えたり、技術・財政支援等をしなければ、農民らがケシ栽培から脱却することは困難だ。ターリバーンのケシ栽培禁止令により、アフガニスタンの2023年のケシ栽培は前年比95%減(国連薬物犯罪事務所報告書に基づく)と伝えられるが、ターリバーン指導部が舵取りを誤れば、再び住民から反発を招き得る他、住民らがケシ栽培に回帰することもあるだろう。

 

【参考情報】

「アフガニスタン:国連はケシ栽培が前年比95%減と報告」『中東トピックス』T23-08 ※会員限定。

「アフガニスタン:反ターリバーン勢力の動向」『中東かわら版』2022年度No.13、2022年4月13日。

「アフガニスタン:ターリバーンがケシ栽培禁止令を発出するも実効性に疑問符」『中東かわら版』2022年度No.5、2022年4月7日。

(研究主幹 青木 健太)

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