中東かわら版

№21 アフガニスタン:北東部バグラーン州等で洪水被害が発生

 2024年5月10から11日にかけて、北東部バグラーン州等で洪水被害が発生した。被害が発生した地域には北東部バグラーン州、バダフシャーン州、タハール州、西部ヘラート州、ゴール州等が含まれる。特に被害が甚大だったのがバグラーン州で、12日付ターリバーン難民省発表によれば、315人が死亡、1630人が負傷した他、多数の家畜の死亡や2600件以上の家屋の全半壊も確認された。世界食糧計画(WFP)も11日、死者300人以上と伝えた。但し、発表された数値は正確でなく、実際の被害はもっと大きいとの報道もみられる。

 ターリバーンはバラーダル副首相代行(経済担当)をバグラーン州に派遣し、地元関係者との調整に当たらせた他、被災者との会合に出席した。同副首相代行は、イスラーム首長国(注:ターリバーン)は日常生活が戻るまで支援を続けると述べた他、災害対策省を中心に、内務省、経済省、保健省、赤十字委員会等から成る委員会が対応に当たると発言した。また、隣接州から、医療チームを載せたヘリコプターも派遣した模様である。

 今次災害に関し、国連のグテーレス事務総長がお見舞いの声明を発出した他、米国、カタル等を始めとする諸外国も被災者に寄り添う声明を発出した。日本も遺族への弔意と被災者へのお見舞いを表する外務報道官談話を発出した。

 

評価

 近年アフガニスタンは深刻な干ばつに悩まされてきたが、今春以来、各地で豪雨が降り、洪水被害が報告されるようになっていた。バグラーン州の洪水被害は特に甚大で、土砂の入り混じった河川が家々や田畑を洗い流し、多くの人命を奪った。現在、情報が錯綜している段階だが、今後ターリバーン当局や国連発表よりも多くの死傷者が確認される可能性が充分にある。

 アフガニスタンの山々は、東部の山岳地帯等一部を除けば、全般的には表層に木々は少なく、岩肌が露出したかたちをしている。河川付近の住民は増水被害に遭ったとみられるが、標高の高い丘陵地帯に居住する住民も、山肌を滑るような鉄砲水被害に遭ったものと考えられる。住民らは被害者の救急救命に当たった上で、生活を再建するための土砂の除去や食料・シェルターの確保に向けて奔走することを余儀なくされる。

 課題の一つは、アフガニスタンの統治主体であるターリバーンが、今次の自然災害支援に適切に対処できるか否かである。ターリバーンは災害対策省を中心に支援に当たる委員会を設置するなど、迅速な対応をアピールしている。他方で、住民の生活再建を見据えれば息の長い支援が必要であり、中央関係省庁、州当局、諸外国・機関との円滑な調整が求められる。

 また、ターリバーンを承認する国が一つもない中、諸外国・機関が他国とは異なる対応を求められる点も今回に特有のものである。諸外国・機関としてはターリバーンと交換公文を交わしたりすることはできないため、国連専門機関、及び、赤十字国際員会等の国際NGOを通じた多国間援助を主に行うことになるだろう。この点、ターリバーンを巡る対外関係が、同国への支援の障壁となり得るが、ターリバーン復権後のアフガニスタンではこれまでにも南東部パクティカー州や西部ヘラート州での地震(各々2022年6月、23年10月)等の自然災害が発生していることから、過去に得られた教訓を踏まえた柔軟な対応が求められる。

 

【参考情報】

「アフガニスタン:西部ヘラート州で地震が発生、被害が拡大」『中東かわら版』2023年度No.98、2023年10月11日。

「アフガニスタン:南東部でマグニチュード5.9の地震の発生と国内外の反応」『中東かわら版』2022年度No.39、2022年6月23日。

(研究主幹 青木 健太)

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