中東かわら版

№26 UAE:米国LNG事業への初参入

 2024年5月20日、アブダビ国営石油会社「ADNOC」は、米企業「ネクストディケード」が米国テキサス州で建設中のリオグランデ液化天然ガス(LNG)輸出プロジェクトに参入すると発表した。ADNOCは同事業の第1フェーズの株式11.7%を、米投資ファンド「グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)」を通じて取得した。第1フェーズでは3つの液化設備が建設され、年間液化能力は1620万トンに達する見通しである。

 またADNOCは、リオグランデLNG輸出事業の第4液化設備で生産された年間190万トンのLNGを20年間にわたって引き取る契約も締結した。第4液化設備の建設は、ネクストディケード社が最終投資決定(FID)を経て、2024年後半に開始する予定である。

 

評価

 今般、ADNOCはリオグランデLNG輸出プロジェクトでの権益取得を通じて、米国のLNG事業に初参入した。ADNOCが同事業に関与する利点として、LNG施設の低炭素化への取り組みを把握できることや、米国産LNGを通じて新たな収益源を確保できることが挙げられる。まず、リオグランデLNG輸出事業では「二酸化炭素(CO2)回収・貯留技術(CCS)」によって、90%以上のCO2排出削減が期待されている。ADNOCはUAE国内で低炭素型LNG施設の新設を計画しているため、米国LNG事業で得られる排出対策に関する知見を参考にするだろう。次に、米国はアジア・欧州へのLNG輸出に好立地であるため、ADNOCは取引可能な米国産LNGを活用することで、アジアや欧州でLNGの販路を広げられる見込みである。こうした自国産以外のLNGのトレーディングは同社にとって、ガス収入の増加につながるメリットとなる。

 湾岸諸国による米国LNG事業への進出は今後も続くと考えられる。ADNOCに先行して、カタルエナジーも2022年よりテキサス州のゴールデンパスLNG輸出プロジェクトに参画している。また『ロイター通信』は今年3月、サウジアラムコがテキサス州のポート・アーサーLNG輸出プロジェクトの第2フェーズへの投資に向けて、米企業「センプラ・インフラストラクチャー」と交渉していると報じた。両社は2019年にLNG売買に係る予備契約を締結した経緯もあるため(しかし、2021年にCOVID-19の影響を理由に失効)、この先、サウジアラビアが同事業に参入する可能性はあるだろう。サウジアラムコは第2フェーズで生産されたLNGの一部、又は全量を引き取ると見られることから、カタル・UAEに加えて、サウジアラビアも米国産LNGを利用しながら、ガス収入の拡大を図っていくと予想される。

 

【参考】

「カタル:エジプト沖合での資源権益を取得」『中東かわら版』No.22。

「UAE:ドイツとのLNG長期契約」『中東かわら版』2023年度No.182。

(主任研究員 高橋 雅英)

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