中東かわら版

№28 UAE:モザンビークでの天然ガス権益を取得

 2024年5月22日、アブダビ国営石油会社「ADNOC」は、モザンビーク北部カーボ・デルガード州の沖合にある天然ガス田の権益10%を、ポルトガル企業「ガルプ」から取得したと発表した。投資対象の沖合ガス田は、ルブマ海盆の鉱区エリア4に位置する。ADNOCは今般の権益取得により、同鉱区から生産される液化天然ガス(LNG)の一部を引き取ることが可能となった。

 鉱区エリア4では現在、コーラル・サウスFLNG(浮体式LNG生産施設)事業が操業中である。また、2024~25年に最終投資決定(FID)が予定される、コーラル・ノースFLNG事業とルブマLNG陸上施設の建設事業も計画されており、3事業の年間液化能力は2500万トンにのぼる見通しである。

 

評価

 ADNOCは現在、UAE国内でのLNG施設の新設計画を進めつつ、国外でのガス田開発にも注力している。2023年8月にアゼルバイジャン領カスピ海の沖合にあるアブシェロン・ガス田の権益を取得した他、今年2月にエジプトでのガス開発に向けて英企業「BP」と合弁会社を設立した。今月にも米国テキサス州のリオグランデLNG輸出プロジェクトでの権益を獲得して、米国のLNG事業に初参入した。世界的な脱炭素化の流れの中、同社は温暖化係数が相対的に低い天然ガスを、再生可能エネルギー源へ移行する期間における「橋渡し燃料」として捉えているため、国内外でのガス田事業に積極的に投資している。

 今般、ADNOCがモザンビークのLNG事業を投資対象とした背景には、LNG輸出に際してのモザンビークの地理的利点がある。同国は不安定な地域情勢が続く紅海・アデン湾から離れたアフリカ南東岸に位置し、LNG船がインド洋に直接進出することが可能だ。これにより、同社は将来的に東地中海・大西洋・インド洋の各方面から輸出できる一定量のLNGを確保できるため、アジアと欧州の両市場でガス収入の拡大を目指していくだろう。

 一方、モザンビークのLNG事業についての最大の懸念は、イスラーム過激派の脅威である。現在、「イスラーム国(IS)・モザンビーク州」を名乗るイスラーム過激派は2017年10月よりカーボ・デルガード州で武装活動を展開しており、2021 年 3 月には鉱区エリア1のモザンビーク LNG陸上施設の建設事業サイトへの攻撃を図った。それ以降、同事業は中断したままだ。海上だけでガス採掘やLNG生産・出荷が完結するコーラル・サウスFLNG事業が操業している点から、計画中のコーラル・ノースFLNG事業は始動する可能性は高い。他方、ISモザンビーク州が完全に駆逐されておらず、治安状況も改善していない現状を踏まえると、ルブマLNG陸上施設の建設事業が実現するかは不透明である。2つのFLNG事業のみの操業となった場合、ADNOCがモザンビークの天然ガス権益から引き取るLNGの数量は大きく減少することが予想される。

 

【参考】

「UAE:米国LNG事業への初参入」『中東かわら版』No.26。

「「イスラーム国・モザンビーク州」の活動とガス田開発への影響」『イスラーム過激派モニター』M23-01。※会員限定。

「モザンビークのイスラーム過激派:地域的拡大とガス田サイト攻撃への懸念」『イスラーム過激派モニター』M20-17。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

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