中東かわら版

№35 サウジアラビア:米国LNG事業への投資に向けた動き

 2024年6月13日、サウジアラビア国営「サウジアラムコ」は米企業「ネクストディケード」と、米国テキサス州で建設中のリオグランデ液化天然ガス(LNG)生産施設からのLNG供給に係る基本合意書を締結した。同合意によれば、サウジアラムコはリオグランデLNGの第4液化設備で生産された年間120万トンのLNGを20年間にわたって引き取る計画である。この先、両社は第4液化設備への最終投資決定(FID)を前提とした、LNG売買に関する拘束力のある本契約の締結に向けて協議していく予定である。

 

評価

 カタルやUAEに続き、サウジアラビアも米国LNG事業への参入を進めている。過去、サウジアラムコは2019年に米企業「センプラ・インフラストラクチャー」とテキサス州のポート・アーサーLNG輸出プロジェクトでのLNG売買に係る予備契約を締結したが、その後のCOVID-19の資源開発業界への影響を理由に、2021年に同契約を白紙化した経緯がある。

 しかし2022年のウクライナ戦争勃発を機に、再エネ移行期の橋渡し燃料として、天然ガスの利用継続が見込まれるようになり、サウジアラビアもLNG市場への投資に前向きになったと言える。昨年、サウジアラムコはオーストラリアで4件のLNG権益を持つガス企業「ミッドオーシャン・エナジー」の株式を取得した他、『ロイター通信』によれば、米企業「テルリアン」とも、ルイジアナ州のドリフトウッドLNG輸出事業の権益取得に関して交渉中である。

 この先、サウジアラビアが国内でLNG生産事業を本格化させるかが注目される。同国の天然ガス生産量は2022年に1204億立方メートルを記録し、産ガス国のカタル(1784億立方メートル)に迫る規模である(出所:The Energy Institute)。他方、全てのガスが油田への再圧入や発電用・産業用として、国内で消費されている。サウジアラムコは2030年までのガス輸出を目指しているため、発電用途のガス消費を抑えることが優先課題となっている。同社が自国産ガスの輸出に新たな活路を見出している点を踏まえると、米国やオーストラリアでのLNG事業への参入は、ガス産業の効率的な管理や国際ガス市場の動向を把握する好機となるだろう。

 

【参考】

「UAE:米国LNG事業への初参入」『中東かわら版』No.26。

(主任研究員 高橋 雅英)

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