中東かわら版

№40 アフガニスタン:国連主催の第3回ドーハ会合にターリバーン代表団が参加

 2024年6月30日~7月1日、国連主催の第3回ドーハ会合が開催され、ターリバーン代表団が出席した。今次会合は国連のディカルロ政治・平和構築担当事務次長主催により、アフガニスタン情勢に関する協議のために開かれたもので、ターリバーンからはムジャーヒド報道官兼情報文化副大臣代行率いる代表団が出席した。ターリバーン代表団が、今次フォーマットの国際会合に出席するのは初めてのことであり注目を集めた。同会合には主要7カ国(G7)を始め各国特使らが参加した。1日目には各参加者が今次会合に期待すること等を述べた他、2日目には民間セクター活性化、麻薬対策と代替作物の促進等について協議がなされた。

 ムジャーヒド報道官は初日の演説で概要以下の通りスピーチした。

 

  • 現在、アフガニスタンは経済制裁により苦しんでおり、制裁解除が喫緊の課題である。
  • イスラーム首長国(注:ターリバーン)は麻薬問題に真剣に取り組んでおり、肯定的に評価されるべきである。
  • イスラーム首長国は経済中心アプローチを採用しており、例えばウズベキスタンと鉄道敷設で連携する他、トルクメニスタンとはTAPIガスパイプライン事業で協力している。
  • イスラーム首長国は各国との前向きな関係構築を望んでいる。
  • ガザ情勢を見てわかる通り、虐殺を支持する欧米諸国の側に人権についてレクチャーする権利はない。

 

 7月2日には、同会合のサイドイベントとして、アフガニスタン市民社会代表者らや女性活動家らと各国特使らの会合が、ターリバーン不在で開催された。欧米諸国、及び、アフガニスタン体制外勢力らは、国連がドーハ会合の本会合にアフガニスタン女性の参加を認めなかったことを強く非難する声明を発出した他、抗議の意思を示すため参加をボイコットする者も現れた。

 この他、本会合のサイドでは、ターリバーン代表団と各国代表団との間でバイ会談が多数行われた。ターリバーン発表によると、これらの国・機関にはカタル、サウジアラビア、ウズベキスタン、カザフスタン、インドネシア、イスラーム協力機構、ロシア、中国、インド、英国、国連、ノルウェー、オランダ、トルクメニスタン、スイス、米国、日本、ドイツ、イラン等が含まれた。

 

評価

 国連はターリバーンとの関与を模索し、これまで様々な対策を講じてきた。具体的には、アフガニスタン情勢に関するシニルリオール特別調整官(トルコ人)の任命(2023年4月25日)と独立評価報告書発行(同11月9日)、そして諸外国にターリバーンとの関与を求める決議2721号の採択(同12月29日)等が挙げられる。その過程においては、グテーレス事務総長のイニシアチブで「ドーハ会合」枠組みが2023年5月に立ち上げられた。2024年2月開催の第2回会合では、国連からターリバーンに対し参加が呼びかけられたが、同勢力は条件が満たされていないとしてボイコットした。

 こうした経緯を踏まえて、今回、国連は主催者を事務総長から事務次長に格下げしたり、ターリバーン代表団との本会合と市民社会との会合を切り分けたりするなど、ターリバーン側の要求に気を配った。これにより、ターリバーン代表団がドーハ会合に初めて参加し、各国特使との間で現下のアフガニスタンを巡る諸課題について対面で協議が行われたことになる。この意味においては、今次会合は、諸外国とターリバーンとの間での関係構築に向けて、小さいけれども確かな一歩と評すことができる。

 他方、今次会合開催をもって同国の状況が劇的に改善するとは考えられないことから、過剰な期待は控えるべきである。そもそも、ロシア、中国、中央アジア諸国、パキスタン、イラン等の国々はターリバーン代表団を自国に招待したり、同勢力と頻繁に接触したりしてきた。すなわち、今次会合は、ターリバーンとの関与をためらってきた欧米諸国とターリバーンとの間での初の国際会合開催という点では新しいが、対話相手を欧米に限定しなければ特段目新しい話ではないともいえる。今次会合の実現に満足することなく、将来的に諸外国がターリバーンと対話を続け、懸念事項を共有するとともに、社会・経済・人道面での様々な課題への対応について話し合いを続け、その内容をフォローアップし成果につなげることがより重要である。

 但し、ターリバーン指導部の考えを変えることは容易ではない点に留意が要る。ターリバーンは今次会合で、女性の権利を巡る問題への言及を避け、代わりに欧米による経済制裁や在外凍結資産の解除、並びに、成果を挙げている麻薬問題を議題に取り上げる戦法を取った。ターリバーンはイスラーム法とアフガニスタンの伝統・慣習に則って国の運営を進めていると主張しつつ、アフガニスタン社会に存在する諸問題への外国からの口出しは内政干渉に当たるとの論法を押し通してきた。この論法がターリバーンに責任を負わせることを著しく困難にしているため、これを崩さない限り社会状況を変えることは難しいだろう。

 

【参考】

「アフガニスタン:国連主催会合がターリバーン不在で終幕」『中東かわら版』2023年度No.174。

「アフガニスタン:国連のグテーレス事務総長主催会合がドーハで開催」『中東かわら版』2023年度No.17。

(研究主幹 青木 健太)

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