中東かわら版

№45 アルジェリア:タブーン大統領が9月7日の大統領選挙に立候補

 2024年7月11日、タブーン大統領は国内メディアとの定例インタビューで、9月7日に実施される大統領選挙に立候補する意向を表明した。タブーン大統領は2019年12月、ブーテフリカ政権崩壊後に初となる大統領選挙で当選した。今般の出馬について、タブーン大統領は多くの政党や組織、若者たちからの要請を受け、憲法で認められている2期目の立候補を表明する時が来たと述べた。これを受け、連立与党の民族解放戦線(FLN)・民主国民連合(RND)・未来戦線は13日、次期大統領選挙に向けてタブーン大統領を支援する立場を発表した。

 その他の立候補者に関して、イスラーム主義政党・平和社会運動(MSP)のアブドッラーニー・ハッサーニー・シャリーフ党首や企業総連合(CGEA)のサイーダ・ナグラ会長が出馬を表明した他、カビール地方基盤の社会主義勢力戦線(FFS)も候補者を擁立する方針を示した。

 

評価

 タブーン大統領は2019年、20年間に及ぶブーテフリカ政権が崩壊して政治的混乱が続く状況下で、大統領に就任した。その後、反政府デモは2020年からのCOVID-19感染拡大により徐々に縮小し、またアルジェリア経済は2022年のウクライナ危機に伴う資源価格の高騰と、アルジェリア産石油・ガスへの需要の高まりによって回復に転じた。タブーン政権は増加した資源収入を、低所得者への住宅配布や年金の拡充などを通じて国民に分配するなど、国民からの支持獲得を目的とした、ばらまき政策を実施している。また出馬表明に先立ち、2019年に反政府デモが活発化した東部地域のハンシュラや、歴史的に中央政府と対立するベルベル人居住地域のティズィウズーで経済開発プロジェクトを発表し、タブーン大統領自らが現地視察を通じて、住民に寄り添う姿勢を示した。タブーン大統領の再選が確実視される中、同大統領が支持集めに注力する理由は、体制維持の不安要因となり得る国民の不満の芽をつんでおく必要があるからだと考えられる。

 これと関連し、タブーン政権による支持集めの過程で、ばらまき政策の実施に必要となる資源収入を維持、拡大できるかが注目される。石油・ガス収入はタブーン政権の開始時(2020年)に記録した202億ドルから、2022年には595億ドルまで増加した。特に天然ガス輸出に関しては、従来の主要輸出相手国(イタリア・スペイン・フランス)だけでなく、英国やドイツ、東欧諸国への輸出量を増加させることが可能となった。一方、資源価格が下落した場合、石油・ガス収入の低下に伴う財政問題がブーテフリカ政権時と同様に、タブーン政権のばらまき政策の規模を縮小させ、政治体制の安定性にも影響を及ぼす恐れがあるだろう。

(主任研究員 高橋 雅英)

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