中東かわら版

№50 イスラエル:沖合で新たなガス田開発事業の始動

 2024年7月23日、英国拠点のエネルギー企業「エナージアン(Energean)」は、イスラエル沖合のカトラン(Katlan)・ガス田開発プロジェクトへの最終投資決定(FID)を行ったと発表した。投資額は約12億ドルにのぼり、2027年上半期までにガス生産が始まる計画である。カトラン・ガス田は2022年に同社によって発見され、同社が開発を手掛けるカリシュ・ガス田近くに位置する。天然ガスの確認埋蔵量は1.1兆立方フィートと推定される。カトラン・ガス田で生産されたガスはイスラエル市場への供給に加え、国外にも輸出される見通しである。

 今回のFIDと関連して、イスラエル・エネルギー省はエナージアン社に対し、カトラン・ガス田の30年間の開発権(20年延長のオプション付き)を承認した。

 

評価

 イスラエル沖合のガス田開発については、昨年10月からのガザ戦争の影響が懸念される中、欧米企業の支援を受け、各プロジェクトの拡大が計画されている。米企業「シェブロン」はイスラエル企業「ニューメッド・エナジー」などと、2024年2月にタマル・ガス田の拡張事業、6月にリバイアサン・ガス田の拡張事業それぞれに投資を行うと発表した。両ガス田で追加生産される天然ガスの一部は、エジプトやヨルダンに輸出される予定である。

 イスラエルからのエジプトへのガス輸出は、欧州諸国にとっても重要である。エジプトは液化天然ガス(LNG)生産施設を持つ一方、現在は深刻なガス不足に陥り、欧州向けガス輸出の拡大に支障が生じている。このため、イスラエルのガス輸出の増加はエジプトのガス不足を解決し、ウクライナ戦争を機にロシア産ガス輸入を控える欧州諸国のガス調達に寄与するだろう。

 一方、イスラエル沖合のカリシュ・ガス田が過去にレバノンのヒズブッラーやイラクのシーア派民兵からの攻撃対象となった点を踏まえると、イスラエルを敵視する周辺諸国の武装組織がこの先も、イスラエルのガス田開発を妨害するような武装活動を実行する恐れがある。

 

【参考】

「エジプト:ガス不足の深刻化を受け、LNG輸入の拡大へ」『中東かわら版』No.17。

「イスラエル:イラク・シーア派民兵によるカリシュ・ガス田攻撃の試み」『中東かわら版』2023年度No.149。

「イスラエル・エジプト:エジプトへのガス輸出の増加に向け、ガス田の拡張」『中東トピックス』T24-03。※会員限定。

(主任研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP