中東かわら版

№39 レバノン:イスラエルによる侵攻を懸念した渡航情報が相次ぐ

 6月下旬から、イスラエルがレバノンに本格的に侵攻するとの脅迫を強める中、各国はレバノンへの渡航や同国からの退避についての勧告を相次いで発表した。域外諸国では、アメリカ(7月1日と6月27日)、ロシア(6月27日)、アイルランド(6月27日)、ドイツ(6月26日)、オランダ(6月26日)、アラブ諸国ではサウジ(6月29日に既存の勧告を確認すると発表した)、ヨルダン(6月28日)、クウェイト(6月21日)が勧告を発表している。内容はレバノン在住者への退避勧告から渡航計画の再検討を促す勧告まで様々だが、イスラエルによるレバノンへの脅迫を反映した動きである。また、主要航空会社からも、ルフトハンザ航空が夜間にベイルート空港を利用する便を7月31日まで運休すると発表している。

 ちなみに、本邦は2023年10月20日以来「レバノンのイスラエルとの境界から約4km以内の地域」に退避勧告、その他の地域に渡航中止勧告を発表するとともに、周辺地域の軍事情勢に合わせて注意喚起を行っている。

評価

 懸念の焦点は、イスラエルがレバノンに大規模に侵攻するのか、侵攻があるとすればその期間や強度はどの程度かという点だろう。2023年10月7日にハマースがイスラエルに対する「アクサーの大洪水」攻勢を実施して以来、軍事・外交場裏のイスラエルの振る舞いで過去の経験に基づく予測から外れたものが少なくないことも、懸念を増幅している。イスラエルは、レバノンへの侵攻をレバノンではなく2023年10月8日以来レバノンとイスラエルとの境界を挟んで交戦しているヒズブッラーに対するものだとの立場で、レバノン国内にもそうした解釈に同調する勢力があると思われる。しかし、これまでの交戦で諸部門が被った損害に加え、夏季休暇の観光で繁忙期を見込んでいたはずの各種産業への打撃に鑑みると、イスラエルによるレバノン領の侵害や軍事・外交的な脅迫はすでにレバノン全体に深刻な打撃を与えている。また、侵攻問題に関心が集中することにより、大統領の空位問題に代表されるレバノンの政治・経済問題への国際的な対処が置き去りにされることによる打撃にも注意すべきだ。

 一方、ヒズブッラーは「アクサーの大洪水」攻勢以来、イスラエルによるガザ地区への攻撃を抑制すると称する軍事行動を続けている。ただし、同党の作戦行動は、イスラエルとの圧倒的な力量の差に鑑みた抑制的なものにとどまり、日々激化するイスラエルからの攻撃や脅迫への対処に苦慮しているようでもある。このような状況は、イランやイラクの民兵諸派をはじめとする「抵抗の枢軸」陣営の存在を考慮しても変わらない。

(協力研究員 髙岡 豊)

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